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「米と発電の二毛作」が進化、太陽光パネルの両面発電にも挑む

ビュー:44303/09/2017  

三瀬村(みつせむら)は佐賀県の北部にある山に囲まれた農村だ。人口は1300人で、2005年に佐賀市の一部になった。稲作と養鶏が盛んな地域だが、平地が少ないことから棚田で米作りに取り組んでいる。農家の収入を太陽光発電で増やす「米と発電の二毛作」がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業として2014年に始まった(図1)。提案者の福永博建築研究所が実証事業を担当する。

図1 「米と発電の二毛作」を実施した棚田。上空写真(左)、実施前(右)。出典:福永博建築研究所

 三瀬村の農家が所有する3枚の棚田のうち2枚の上部に太陽光パネルを設置した。太陽光パネルは1枚あたりの発電能力が250W(ワット)で、合計58枚を3列ずつに並べて配置する構成だ(図2)。農地を一時転用して営農型の太陽光発電を実施する「ソーラーシェアリング」は九州で初めての試みである。

図2 太陽光パネルの配置。出典:福永博建築研究所

 最大の特徴は太陽光パネルを設置するワイヤー式の架台にある。棚田の中に高さ4メートルのA型のフレームを支柱として立てて、支柱のあいだをワイヤーでつないで太陽光パネルの架台を造る(図3)。南北の方向に設置した支柱とワイヤーの上に太陽光パネルを装着する仕組みだ。ワイヤーがたるむことによって、パネルの角度は北向きか南向きに0度から20度まで傾く。

図3 太陽光パネルを設置するワイヤー式架台。1年目の2015年(上)、2年目の2016年(下)。GL:グランドレベル(地面)。出典:福永博建築研究所

 棚田で二毛作に取り組んだ1年目の2015年にはワイヤーの高さを2メートルに下げて風の影響を抑えたが、2年目の2016年は3メートルに引き上げて農作業を進めやすくした。さらにワイヤーを支える折りたたみ式の脚を閉じた状態にして、代わりに振れ留め用の補助ワイヤーを追加して耐風性を高めている。

 太陽光パネルは左右の間隔が4メートル、前後の間隔が1メートルになるように配置した(図4)。稲の成長には穂が出る前の状態で1日あたり5時間の日照、穂が出てからは9時間の日照が必要になる。太陽光パネルの下に影ができても、1本1本の稲に対して十分な日照時間を確保できるように計算してパネルの間隔を決めた。

図4 ワイヤー式架台の外観(上)、振れ留めワイヤーによる耐風性の増強(下)。出典:福永博建築研究所

三瀬村では棚田の農作業を毎年4月に始める。農機を使って田んぼを耕すために、補強用の振れ留めワイヤーを外して農機を移動しやすくした(図5)。5月の田植えも同様に振れ留めワイヤーを外した状態にすれば、太陽光パネルの位置はそのままで農機を田んぼに入れて作業できる。

図5 農機を使った田植え前の荒がき(上)と田植えの様子(下)。出典:福永博建築研究所

 1年目は農機を使う時に、支柱に付いているチェーンを使って手動でワイヤーを上げ下げして太陽光パネルの位置を変える必要があった。2年目は力のいるワイヤーの上げ下げを省くことができて農家の負担が軽くなった。ただし架台の周囲だけは農機を使えないため、手で苗を植えなくてはならない(図6)。この手作業は1年目も同様だ。

図6 架台の周囲の一部を手植え。出典:福永博建築研究所

 稲は太陽光パネルの下で、2年続けて問題なく成長した(図7)。穂が実って刈り取り作業を実施するのは10月中旬である。太陽光パネルによって影ができる区画と影ができない区画で1株あたりの収穫量を比較した結果、影ができる区画では1年目に平均90%、2年目は82%だった。

図7 稲の生育状況。出典:福永博建築研究所

 実証事業を担当した福永博建築研究所の草野寿康氏によると、「2年目は田植えが1週間ほど遅れた。稲の穂が分かれるまでの期間が短く、影ができる区画では穂の数が増えなかったことが原因ではないか」と推測する。収穫量の比較にあたっては、1メートル×2メートルの区画から40株を採取して複数の区画の平均値を出した(図8)。日照時間のほかに、施肥など農作業との関連についても引き続き検証する。

図8 収穫量を比較するための坪刈りの様子。出典:福永博建築研究所

 一方で年間の発電量は当初の想定を上回った。太陽光パネル58枚で全体の発電能力は14.45kW(キロワット)である。年間の発電量を1000倍の1万4550kWh(キロワット時)と推定した。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)では11.4%になる。2015年10月から2016年9月の実績では年間の発電量が1万5256kWhに達した(図9)。設備利用率は12.0%で、太陽光発電の標準的な水準と同等だ。

図9 月ごとの発電量。出典:福永博建築研究所

 三瀬村では冬に雪が降ることも多く、12月から2月にかけては日照時間の短さと相まって発電量が大幅に落ちてしまう(図10)。その代わりに高原にあるため夏の日中でも気温がさほど上がらず、太陽光パネルの発電効率が低下しない。1日あたりの発電量は8月が最高だった。

図10 太陽光パネルに雪が積もった状態。出典:福永博建築研究所

回転式の太陽光パネルで発電量を増やす

 実証事業ではソーラーシェアリングによって稲作に支障が生じないことのほかに、必要な設備を量産できた時の発電コストを27円/kWh以下に抑えることが目標になっている。27円/kWhは固定価格買取制度による2015年度の買取価格だ。実際の発電量をもとに、発電能力が50kWの設備で発電コストを試算したところ、約21円/kWhになって目標を達成できる水準になった(図11)。

図11 発電能力が50kWの場合の発電コスト試算。出典:福永博建築研究所

 さらに棚田の限られた設置スペースの中で発電効率を高める手段の1つとして、ユニークな発電方法を試した。1枚の太陽光パネルの裏側に、もう1枚の太陽光パネルを下向きに設置して棚田からの反射光でも発電する方法だ(図12)。

図12 回転式の太陽光パネルによる反射光を利用した発電。出典:福永博建築研究所

 稲作期間中の2カ月間に発電量を測定した結果、下向きになっている裏面の太陽光パネルの発電量は上向きのパネルと比べて11.4%だった。裏面の太陽光パネルは回転式になっていて、稲作を実施しない11月から4月の6カ月間は上向きにして通常の太陽光パネルと同様に発電できる(図13)。

図13 回転式の太陽光パネルの構造(上)、季節による発電方法(下)。出典:福永博建築研究所

 この回転式の太陽光パネルを全体に採用すると、棚田に3列で合計26枚ある上向きの太陽光パネルのうち、24枚の裏側に下向きのパネルを設置できる(図14)。稲作期間の5月から10月は下向きで、11月から4月は回転させて上向きで発電することによって、全体の発電量を年間に51%も増やすことが可能だ。

図14 回転式の太陽光パネルを全面採用したモデル(上)、季節によるパネルの設置状態(下)。出典:福永博建築研究所

 実証事業を担当した福永博建築研究所は2017年も「米と発電の二毛作」を続けて実用化を目指す。ワイヤー式の架台と回転式の太陽光パネルは国内特許と国際特許を出願中だ。棚田で発電した電力は現在のところ13円/kWhで九州電力に売電しているが、今後は固定価格買取制度の認定取得も検討する。現状よりも発電コストを引き下げることができれば、固定価格買取制度を利用して営農型の太陽光発電で利益を生み出せる。

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